平成30年度採択事業者 インタビュー

2019年10月作成

MatriSurge株式会社

Matrisurge株式会社

医師でも起業できる最適な支援システム

MatriSurge株式会社
代表取締役社長 八木 洋

ビジネス知識のない状態からのスタート

――AMDAPの支援システムについて、感想を教えてください

八木AMDAPに採択されてとてもありがたかったのは、カタライザーの先生による助言、指導です。とくにベンチャーの立ち上げからご助言をいただけたことです。

私は外科医として慶應義塾大学病院で臨床をおこないながら、研究に取り組んでいます。以前から研究成果を世に出すために企業のサポートが必要だと考えていましたが、ビジネスの知識はなく相談相手もあまりおりませんでしたので、開発企業の誘致はもとより自らベンチャーを起業するなどは想像できませんでした。

AMDAPに応募するにあたっては、技術とその基盤になるデータの蓄積はありましたが、ベンチャーとしての体制を初めて検討しました。採択された時点でも私たちは「起業予定」でしたので、まだ会社はありませんでした。採択後に私たちの担当カタライザーの先生は、ご自身もベンチャーを立ち上げた経験豊富な方でしたので、ご助言をいただきながらスムーズに起業することができました。

そもそも、まだ会社がない時点からサポートをいただけるというのは他の支援スキームでは考えにくいと思います。このように起業段階からご支援いただけることは、現役の医師にとってはとても助かることだと思います。この点はAMDAPの大きな特徴の一つだと思います。

カタライザーの先生は医療機器開発に精通しておられますので、ベンチャーの立ち上げだけでなく、医療機器を事業化するまでのプロセスの全体像、そしてその先にある様々な出口が見えています。私たちの研究開発の進行状況を見ながら、出口から逆算してご助言をいただけたことは大変心強く、また様々な専門家のご紹介をその都度適切な時期にいただけました。

カタライザーの先生とお会いするのは月に2~3回ですが、メールなどでも頻繁にやり取りをし、また大変お忙しい中で、臨床医である私の状況を鑑みて、慶應義塾大学病院まで来ていただくことが多く、それ以外にも製造工場、特許事務所、弁護士事務所、関連会社、PMDA、といった専門家や支援いただける方々、規制対応の面談にも同席していただきました。

さまざまな場面で伴走していただき、アドバイザーという存在を超え、チームの一員になっていただいているように感じています。

採択から2か月で起業できた

――スピード起業だったそうですね。

八木洋さん

八木AMDAPの採択が2018年11月で、起業が2019年1月、2月には融資を受け、8月にはカタライザーの先生が専用工場のご提案をしてくださいました。

AMDAPに採択されるまでは、外科医が起業する事例をあまり知りませんでしたし、自分が起業するにしても何年後のことなのかという漠然としたイメージしかありませんでした。しかし、カタライザーの先生にご助言をいただいてから2か月で起業、半年で製造工場まで決まるというスピード感は、予想をはるかに上回るものでした。

私ひとりではまったくできないことを信じがたいスピードで実現してくださいました。この進捗につきましては、私の所属する慶應義塾大学医学部内でも驚きをもって受け止められています。まさにAMDAPの支援スキームのおかげだと思っています。

10年かけた研究が事業化されるまで

――AMDAPに採択されるまでについて教えてください。

八木臨床で移植手術に携わりながら10年かけて再生医療に関わる研究をしてきました。一般的には、臨床、研究、教育、が医師のキャリアパスとして王道で、医療機器開発はそうしたルートからは少し外れておりますので、特に外科医にとっては強い覚悟が必要だと思います。

アメリカに留学しているときに、再生医療を自分のライフワークにしようと決めました。細胞が除去されて細胞外マトリックスだけが残った透明な肝臓を見て「こんなものをつくることができるのか」と驚きました。その技術で臓器を再生できるのではないか、その第一歩として医療機器を製品化するための起業を考えていました。

10年かけて進めてきた研究が少しづつ形になってきたときに、ちょうどAMDAPに応募する機会を頂戴し、運良く採択されました。研究成果を早く患者様の元に届けるために、ビジネス化に向かう体制と道筋のすべてをAMDAPの支援で整えていただけたと感じています。

起業の直前、直後が最適なタイミング

――AMDAPの支援をうまく活用できるのは、どのような人、どのようなタイミングでしょうか。

八木単に医師が医療機器のアイデアがあるというだけではこの支援を活かしきれないと思います。医師として問題点を感じているだけではなく、開発マインドをもって具体的な行動をとり始めている必要があると思います。

具体的に何をつくるかが決まっていること。そして、すでにベンチャーを起業している、あるいは起業する予定であり、一定の資金確保の手段も決まっているくらいの状態が、AMDAPの支援を受けるのに非常にいいフェーズなのではないかと思います。そうした段階で支援を受けることでビジネス面での体制づくりが加速されると期待できます。

思いをぶつけて、夢を現実にする

――起業をして自分の中で変化はありましたか。

八木ビジネスも、人と人との関わりだというのが率直な感想です。紹介していただいた多くの人と本気でやっていく。気持ちと気持ちの繋がりというのでしょうか。そうして、皆さんに「面白い、協力したい」と思っていただけることで、ここまで進んで来れた気がいたします。

自分には「臓器再生医療を実現する」という夢があります。こうした夢を言葉にしながら、気持ちを込めて開発を進めていくという意識が生れました。

再生医療開発は急速に進んでおりますが、一方で臨床的には角膜をはじめとした複雑ではない一部の組織が対象であり、臓器再生医療の開発はまだ道半ばです。ただ実際には、移植医療の現場では、「ここに臓器があれば」と思う状況が多くあります。今回、AMDAPでビジネス化を目指すことが、そうした夢の医療を実現するための第一歩となるはずです。

大学教育でも起業については必要

――今後の見通しについて教えてください。

八木洋さん

プロジェクトマネージャー
筏谷璃子(いかたにるりこ)さん

八木医学部6年間の中で医療機器開発についてほとんど触れられないことは、一つの問題であると思います。医療機器開発のリーダーにならなくてはならない人材としての医師が、早い段階で医療機器開発について見通せる教育が必要に思います。少しでも医療機器開発に触れた経験がなければ、チャンスがあっても活かすことができないでしょう。

また学生のうちに起業を応援してくれるビジネス分野の方との交流を体験することで、異分野の価値観を学び、医療を新鮮な角度から眺めることができると思います。

こうした教育プログラムを充実させることで、医療機器開発におけるわが国の国際競争力をあげることができるのではないかと考えます。われわれが先達になって、若い人材を引っ張っていきたいですね。

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