令和2年度採択事業者 インタビュー

2021年10月作成

アナウト株式会社

アナウト株式会社

外科医の認識や判断を支援する手術支援AIシステムの開発

アナウト株式会社
代表取締役 小林 直
共同創業者 熊頭 勇太
CTO(AIエンジニア)銭谷 成昊

一緒に走り、事業が大きく加速した

手術中にリアルタイムで術野を支援するシステム

――内視鏡手術の手術支援システムというのは、どのようなものでしょうか。

「良い人はいないか」と相談して良かった

小林かつて外科の手術は、全て外科医の眼で直接見て行っていました。そのため、術野を見ることができるのは、その場にいる限られた医師だけでした。ところが、内視鏡手術が登場してからは、手術はカメラとモニターを通した映像を見ながら行われ、その映像が記録されるようになりました。その結果、手術室のスタッフ全員が術野を共有することができるようになり、外科医にとっては手術を学ぶ機会が増えました。さらに光学技術の進化とともに極めて微細な構造物が映し出され、エキスパート外科医により患者個々に異なる極めて微細な解剖に基づいた手術が可能となりました。

一方でその技術を獲得することは決して容易ではなく、私は10年ほど外科医として経験を積み、多くの手術ビデオを見て、本を読んで、先輩外科医の指導を受け手術を学んできました。学べば学ぶほどにモニターに映し出されている情報は膨大であり、手術中に常に意識することは難しいと感じるようになりました。「手術中にリアルタイムで術野の解剖構造物が可視化されたら、より安全で正確な手術ができるだろう」という考えが生まれました。

我々は手術動画に映る解剖構造物、そしてエキスパート外科医の技術そのものをAIに解析させ、手術中にリアルタイムに、それらを視覚化するシステムを開発しています。
手術ビデオをAIに教え込む作業を、緻密に積み重ねて、エキスパートの先生方と同等の認識能力を持ったAIソフトウェアを完成させることを目指しています。私たちはこのAIソフトウェアで、手術中の外科医の認識を支援し、若手外科医の手術教育や安全な手術遂行に貢献できる、そして日本の高い技術を世界に届けることができると考えています。

カタライザーの開発経験に基づいた助言

――AMDAPの支援を受けることで、どのようなメリットがありましたか。

薬事や行政対応などの助言が豊富 東志保さん

熊頭AMDAPの他にもさまざまな支援プログラムがあることは知っていましたが、AMDAPの特徴的な支援内容は、医療機器開発に必要なほぼ全ての領域について網羅的に支援をしてくれることでした。アナウトの創業は、2020年7月です。創業は小林と私の外科医の2名と、戦略コンサル出身である現COO細見の3名体制で、事業戦略の作成や、財政面の管理はできていました。しかし、当時は医療機器開発経験があるエンジニアはおらず、外科医2名は医療機器を使ったことはありますが、開発経験はないので、開発設計、薬事法の規制、製品の安全性の確保などのクリアしなければならない課題が多く、何をどうしたらいいのか、わからない状況でした。

AMDAPは、開発から知財、薬事、事業戦略も全て支援してくれる非常に有意義なプログラムであると感じています。AMDAPの支援によって、事業は大きく加速しました。余談ですが創業前の2019年に個人事業主としてAMDAPに応募した時には落選し、2020年にリベンジを果たしました。

AMDAPのもうひとつの特徴はカタライザーの伴走です。我々の担当カタライザーの方は、手術機器を開発した経験があります。
先日の日本内視鏡外科学会総会にも一緒に参加しました。様々な手術用の機器や医療機器が展示されているなか、「アナウトの開発はこういう形で組み込めるのではないか」と、ひとつひとつの商品と技術連携の可能性を教えていただきました。
実際に会場内で、内視鏡のシステムを作っている会社の方をご紹介いただき、その場でディスカッションを実施し、本当に寄り添い、伴走していただきました。おかげさまで今まで見えていなかった弊社の開発の先の形が、具体的なイメージになったのは本当に良かったと思います。また、多くの難題があるなかで、実務的なアドバイスのみならず、いつもエールをいただき、精神的な面でのサポートも感じています。

小林カタライザーの方は、内視鏡手術を世に広めた、立役者的な開発者でした。直接目で見て行っていた開腹手術から、モニター越しに実施する内視鏡手術に移行する時には、様々なトラブルもあり、大きな壁があったわけですが、そのようななかで、「新しい手術の方法は、傷を小さくして画面を見ながら行うメリットが絶対にある」と強く信じながら開発を続けてこられてきたのだと思います。このように、実際に様々な問題を乗り越えてきたカタライザーの方から事業化への心構えを伺うことができて、とても大きな支援になっています。

事業全体はとてもタフですが、カタライザーの方が精神的に支えてくれているというのは、僕自身のやる気にも繋がっています。ちょっとした開発のステップアップを見ていただき、日々、事業の進展を一緒に喜んでいます。そういった日々のやりとりによって、支えられている実感があります。

「良い人はいないか」と相談して良かった

――開発エンジニアの視点からも、AMDAPの支援について何かコメントはありますか。

銭谷今はデザインのセンスを持ったエンジニアがなかなかいません。私たちが開発している製品は、手術中に見ている術野画面にグラフィックで情報を重ねます。見やすいこと、誤解されないことは大前提ですが、その上でデザイン的なセンスが優れていないと、優れた製品とは言えません。思うような人材がなかなか見つからない中でAMDAPに「当社の開発品のデザインを支援できる専門家はいないか」と問合せをしましたところ、とても良いデザイナーの紹介を受けることができました。

驚いたのは、スピード感です。返事が早い、やりとりが早い。自分たちで探していたときは、問合せを入れてから返事が来るまでに数週間を要したりしていましたが、AMDAPでのやりとりは、常にスピード感があり、すぐに返事をいただけました。そして、カタライザーの方に打合せに入っていただくことで、課題の検討、解決が早く進み、とても助かっています。

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