令和4年度採択事業者 インタビュー

2023年9月作成

Milk.株式会社

Milk.株式会社

ハイパースペクトル画像を活用した
新たな病理診断支援システムの開発

Milk.株式会社
代表取締役CEO 中矢 大輝

ハイパースペクトル技術で、細胞核の色合いや分光精度でがん細胞を識別診断が難しい膵臓がんと胆道がんの病理診断を支援

Milk.株式会社は、医療機関との約8年にわたる共同研究を通じて、約1万人以上の患者さんから病変組織の標本を集め、がんを高精度で識別する技術を構築してきた。国内の病理専門医不足の解消にもつなげようと、ハイパースペクトル技術で診断の精度を飛躍的に高める画像診断支援システムの開発に挑戦する。事業化のノウハウを知るAMDAPのカタライザーと二人三脚で課題を乗り越え製品化を目指す。

――ハイパースペクトル技術は画像診断支援にどのように活用されますか?

代表取締役CEO 中矢 大輝

中矢ハイパースペクトルカメラは、一般的なカメラで捉える色彩情報が光の三原色であるのに対して、141原色あります。1回の撮影で肉眼では見えない細かい光の色情報を取得することができます。その特徴を活かし、顕微鏡での目視判断の限界を超え、細胞レベルで識別することを可能にしようというのが、私たちが開発している画像解析プログラムです。細胞を捉える「ハイパースライドスキャナ―(ハイパースペクトルカメラ搭載)」に、画像解析ソフトを組み合わせた、病理診断システム「ANSWER for Pathology」の製品化を目指しています。

これまで私たちが検証してきた臓器は7種類以上に及びます。膵がんなど診断が難しいとされる疾患であっても90%を超える識別精度が得られており、その応用範囲を拡大しております。
これまでにハイパースペクトルカメラにて撮影した症例が約1万件です。現在は製品化に向け、5つの医療機関と連携して膵臓がんと胆道がんのデータセットの作成に取り組んでいます。

「ハイパースライドスキャナー」は、プロトタイプまでできており、現在、医療機器製造業者と品質管理体制を含めた連携体制についての協議を進めている段階です。

――がんの病理診断支援に着目したきっかけは?

中矢「ハイパースペクトル」という言葉は、ようやく国内大手企業がこの技術を活かした製品を展開するようになって知られるようになりました。もとは1980年代に米国で台頭した技術で、地球観測や衛星リモートセンシングなどで実用化されました。膨大なコストがかかることもあって、小型化、低価格化が進んだのは、ここ数年です。また、膨大な光の色情報を取得した後、その画像を分析するソフトウェアが必要です。分析ソフトウェアの汎用化も進んではいますが、医療分野ではまだ実用化されていません。そこに着目しました。

私のもともとの専門は天文物理で、ブラックホールの仕組みなど宇宙の不思議を解明することに興味がありました。ただ、宇宙の世界は仮説の積み重ねが多く、ロマンはあるものの、自分の研究の成果が与える影響がわかりづらい分野でもあります。そこでもう少し身近な不思議を解明しようと関心を持ったのが「なぜ病は人の体で生じるのか」「なぜ人は老いるのか」です。病を医学的なアプローチではなく、物理学的なアプローチで研究したいという思いから研究テーマを探していたところ、細胞の光の情報をより多く取得できるハイパースペクトルカメラに出会いました。

実際にがん細胞の研究を始めたのは2015年です。北里大学との共同研究で大腸がんの病変をハイパースペクトルカメラで撮影し、わずか3ヶ月で細胞を識別する解析モデルをつくることができました。ただ、最初から100%という識別率が得られてしまったので、「これは実験方法が間違っているかもしれない」と感じ、大腸がんの前がん病変も含めて追加の解析を行いました。

「潰瘍性大腸炎」「軽度異型性」「高度異型性」「大腸がん」の4グレードに分けた病変の識別では、98.7%の予測精度の成績に至りました。

「本当にがん細胞を識別できるかもしれない」と、さらにサンプルを増やして研究を実施したところ、7種の臓器で90%以上の精度でがん細胞を識別できることがわかりました。
最初の段階として製品化するのは、膵臓がんと胆道がんの領域での病理診断支援です。これらの領域は、診断の難易度が高く専門医であっても判断に迷うことがあるそうです。病理診断は患者さんの手術や治療方針を左右する最終診断にあたるので、より客観的なデータに基づく診断支援は必要です。また、病理専門医は国内で約2,600人と不足しており、診断に約3週間かかることもあります。特に胆道がんと膵臓がんはこの領域を専門とする医師はさらに少ないです。

こうした臨床現場の困りごとをハイパースペクトル技術と解析技術で解決してこそ、社会的かつ臨床的意義を果たせるものと考えています。

――今後の展開について聞かせてください。

中矢私たちの技術で、がんだけでなく、そのほかの病変も識別できる可能性が見えてきました。前がん病変の識別、がんの悪性度の識別に加え、遺伝子変異の予測や患者さんによって効果が異なる薬剤治療にも展開できる可能性も見えています。

診断のコアになる病理診断が発展すれば、治療も変わりますし、予防も変わるかもしれません。そういった意味でも、診断の領域は変革を遂げていきますし、診断と治療との間にある大きな溝を解決する形で、診断技術の変革の一端を担いたいと思います。

――最後にAMDAPの支援を受けた感想を聞かせてください。

最後にAMDAPの支援を受けた感想を聞かせてください。 代表取締役CEO 中矢大輝

中矢画像解析手法の研究を繰り返して精度を上げ、実用化に向けて数々の課題をクリアしてきました。ようやく基礎的な研究開発が落ち着いたので、8年の研究成果をもって製品化を目指すべくAMDAPの事業に申請しました。

採択されてからは、カタライザーや専門家と毎週のように打ち合わせをしています。技術からソフトウェア開発のプロセス、製品構想に至るまで、医療機器で使われた前例がない技術で製品化したいという私たちの思いをしっかりと受け止め、適切な助言をいただき、一つ一つ課題を解決しています。

また、弊社は平均年齢 24歳の若手のエンジニア組織です。資料の作り方からプロジェクト管理、医療機器の製造販売企業に求められる組織体制など医療機器開発に関わる全般的な内容を指導いただいたことは大きな収穫です。

これだけのことを外部のコンサルタントにお願いしたら大変なコストになります。スタートアップの予算繰りは厳しいですから。

どうすれば新技術の持ち味を生かした実用化ができるのか、私たちと同じ目線、まさにスタートアップ目線で考えてくれます。

画像診断支援システムの承認を目指して、AMDAPでの支援を成果につなげていきます。

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